わたしはアリス。おや、お目覚めかい? アリス。どうしたんだい? 浮かない顔をして。 旅行に行くんだろう? 旅行は楽しいものだから、もっと楽しい顔をしなくちゃいけないよ。 「わたし、どこへも行けない」
何を言っているんだい? アリス。キミはどこへだって行ける。 「いや! 真っ暗だわ。ここはどこなの? わたしをここから出して!」
人聞きの悪いことを言わないでおくれ、アリス。 「本当だわ。明るくなった」
そう。何もかもがキミの思うがまま。 「でも」 でも? 「わたし、帰らなきゃ」 どこへ? 「どこって――お家よ」 誰の? 「わたしの」
わたし? 「わたしは、アリスよ」
そう。キミはアリス。 「どうしてって……わたし、生まれたときからアリスだったもの」 キミがアリスだって誰が決めたんだい? 「お祖父さまが名前をつけてくださったのよ」
他には? 「お母さまも、ばあやも、エリックも、マーサも、ハンナも……みんな、わたしのことアリスだって認めてくれるわ」
その人たちがみんないなくなったら? 「お役所に行けば、わたしの記録が残ってるわ」 じゃあ、それもなくなったら? 「そんなこと、あり得ない。誰かがわたしをアリスだって認めてくれるもの」
本当にそう思う? 「それは……思うわ」
どうか思い出して。 「でも――いやだわ。わたしは、みんなと一緒にいたいもの。みんなとお別れするのはいや!」
聞き分けのない子だね、アリス。 「思うわ。でも……わたしにはやらなければいけないことがあるもの」
へぇ、それは? 「わ、わたし……朝起きたらお庭のデイジーにお水をあげるの。それから、スージーにもミルクをあげなきゃいけないわ。ばあやが朝食を作るお手伝いもするし……そう、学校に行かなきゃいけないの。スミス先生はちょっと意地悪だから、頑張って予習をしなきゃいけないし、マーサたちとショッピングに行く約束もした。お母さまのお誕生日ももうすぐだから、プレゼントをあげなきゃいけないわ。わたし、今年はばあやに編み物を教えてもらって、マフラーをあげるつもりなの。お母さまには赤が似合うから、今から赤い毛糸を探しておかなきゃいけないし、それから……それから……」
わかったよアリス。
おや、もう朝だね。 |