おじいちゃんがわらった。

 おじいちゃんが、ぼくんちにあそびにきた。

 おじいちゃんはいつもニコニコわらってるんだ。ツルツルのハゲあたまで、くろとしろがまじったヒゲがトゲトゲはえてて、そのトゲトゲで、ぼくのかおをスリスリするんだ。でも、スリスリじゃなくて、ジョリジョリになっちゃう。ぼくはイタイからイヤだっていってるのに、おじいちゃんはうれしそうに、またジョリジョリする。
 これさえなければ、ぼく、おじいちゃんのこと、キライじゃないのにな。

 おじいちゃんがデパートにつれていってくれることになった。
 ぼくのスキなもの、なんでもかってくれるって。おかあさんは「お義父さん、あまりタケシを甘やかさないで下さい」っていってたけど、おじいちゃんは「たまにやけ、ええやろ」っていった。へへーん、ざまぁみろだ!
 ぼくは、そのときから、ずっとほしかったプラモをかってもらおうとかんがえていた。

 デパートについたら、スゴイひとだった。なんだか『フキョウ』とかだから、バーゲンをやってるんだって。おもちゃうりばも、ひとでいっぱいだった。
 ええと……あった! ぼくのほしいプラモ!
 オレンジと、しろと、みどりでぬられたクルマのえがみえる。カ〜ッコイイ〜!
 おもちゃうりばのたなの、うえのほうにある。せんきゅうひゃくはちじゅうえん、のじがけされて、せんろっぴゃくにじゅうえん、になってた。でも、ぼくじゃせがとどかない。
「おじいちゃん! ぼく、あれほしい!」
「おお、そうかぁ」
 おじいちゃんは、ぼくよりずっとせがたかい。らくらくプラモまでとどくたかさだ。おじいちゃんはヨロヨロと、まわりのひとにぶつかりながらあるいていった。
 ひと。
 ひと。
 ひと。
 ひとでいっぱいだ。
 おじいちゃんのせなかは、ひとにマギレテみえなくなった。ちっちゃいぼくは、たってるのもタイヘンだったから、エスカレーターのそばにある、ベンチにすわって、まってることにした。

 ……おじいちゃん、おそいなぁ。プラモ、まだかなぁ。

 ズイブンとたってから、おじいちゃんはトボトボと、もどってきた。てには、なにももってない。
「おじいちゃん、プラモは?」
「すまんなぁ、タケシ。売り切れてしもうた」
 それをきいて、ぼくはキレた。
「おじいちゃんのウソつき! かってくれるっていったじゃんか!」
「ごめんなぁ。じいちゃんの前の人が買ってってしもうて、じいちゃん買えんかった……店の人にも何度も頼んだんやけど、もうないって」
「やだやだやだやだやだ!」
「ごめんなぁ……そうやタケシ、アイスクリームでもくわんか?」
「やだやだやだやだやだやだやだやだ!」

 デパートからのかえりみち、ぼくはおじいちゃんとヒトコトもしゃべらなかった。おじいちゃんも、なにかいいたそうにしてたけど、ヒトコトもしゃべらなかった。

 それから、ぼくは、おじいちゃんとはずーっとしゃべってやらなかった。おかあさんにおこられても、しゃべってやらなかった。
 ぼくにすきなものかってくれるって、やくそくしたのに。ウソつきなおじいちゃんなんて……

 おじいちゃんが、おじいちゃんちにかえるひ、ぼくはしたくなかったのに、げんかんまで、ミオクリをさせられた。
 おじいちゃんはションボリしたかおで、「すまんかったなぁ、タケシ」といった。そのかおをみたら、ぼくはイライラして、「おじいちゃんなんてキライだ!」とどなった。
「タケシ!」
 おかあさんはスゴイこえでおこったけど、ぼくはそのまま、じぶんのへやにもどった。

 おじいちゃんがかえって、いっしゅうかんたった。デンワがなって、いつもみたいにおかあさんがでた。
「はい、もしもし……え? ……そうですか……はい……はい……」
 ジュワキをおくと、おかあさんはタメイキをついて、ぼくにいった。
「……おじいちゃんね、突然お風呂場で倒れて、亡くなったんだって」

 キライだなんていうんじゃなかった。
 おそうしきのひ、おじいちゃんのしろいかおをみて、ぼくはコウカイした。そのかおは、ぼくのしってるおじいちゃんのかおだったけど、ぼくのおじいちゃんじゃなかった。
 ホントは、おじいちゃんのこと、ダイスキだったのに。ぼくは、じぶんでもよくわからないうちにさけんでいた。
「おじいちゃん! キライなんていってごめん! ぼく、ぼく……」
「タケシ!」
 おかあさんに、うでをひっぱられてとめられたけど、ぼくはさけぶのをやめなかった。
「……ぼく、おじいちゃんのことダイスキだから! ずっと、ずっとダイスキだからね!」

 そのとたん、おじいちゃんがわらった。
 いままでうごかなかった、おじいちゃんがわらった。

「おかあさん! おじいちゃんわらった! わらったよ!」
「タケシ!」
 おかあさんは、こんどはホントにおこったみたいだった。
「……ヤスコ。タケシも、父さんが死んで悲しいんだよ。少しくらい大目に見てやったらどうだ? まだこんなに小さいんだし……」
 そこに、クライかおをした、おとうさんがきて、おかあさんをとめた。
「でも……」
「タケシも、父さんに嫌いなんて言ってしまったもんだから、罪悪感を感じているんだよ。笑ったと思えたほうが、タケシにとってもいいし、父さんにとっても、いい供養になるんじゃないかな?」
「そうかもしれないわね……」
「ちがう! おじいちゃんはホントにわらった!」
「そうか、タケシ。お父さんは信じてるよ」
 ちがう、しんじてなんかない。ぼくがこどもだとおもって、バカにしてるんだ。なにもわからないとおもって、バカにしてるんだ。
「ホントにわらったんだもん!」
「タケシ! いい加減にしなさい!」
 ぼくは、おかあさんにどなられて、まわりのおとなたちにわらわれて、くやしくてなみだがでてきた。それをみられないように、おじいちゃんちをとびだすのでセイイッパイだった。
「本当に、すみません……」
 とおくから、おかあさんのあやまるこえがちいさくきこえてきた。
 あやまるヒツヨウなんてないのに。
 ぼくはホントのことをいっただけなのに。

 いいんだ。
 おとなたちがしんじてくれなくても、ぼくはいいんだ。

 おじいちゃんはわらったんだ。
 おじいちゃんは、ホントにわらったんだ。


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